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翻訳: 2010年7月アーカイブ


翌朝、結婚式の準備のためにいそいそと入ってきた乳母はジュリエットの死に衝撃を受け、キャピュレット公とキャピュレット夫人も悲しみに打ちのめされます(やはり彼らは娘を愛していたのだと再確認出来るシーンでもあります)。


霊廟に横たわるジュリエットが本当に死んでしまったのだと思い込むロミオは、ジュリエットの側にいたパリスと揉みあい、殺してしまいます(パリスはつくづく可哀想な存在ですね・・・)。


バルコニーのシーンや寝室のシーンでのパドドゥで用いられた2人の愛の旋律がここでも流れますが、仮死状態のジュリエットはパリスと踊っていた時よりもさらに生気を失い、だらりと力なく横たわるばかり。


原作の中でロミオは、「死して」なお変わらぬ美しさを保ち続けているジュリエットに

ROMEO: "Thou art not conquer'd (死はまだ君を征服してはいない)"


と語りかけていますが、このパドドゥを見るたびに、ロミオの諦めきれない想いが伝わってきて涙が溢れてしまいます。

反応のないジュリエットを激しく揺さぶるのは、何とか生き返らせようと言う想いからの行為なのではないか、と。

この物語の結末を知っているからこそ、「その通り、ジュリエットは死んでなんかいない、もう少し諦めずに頑張っていたら目を覚ますのに!」と教えてあげたい衝動にも駆られます。

ロミオが服毒して倒れるのとほぼ時を同じくしてジュリエットはついに目を覚まします。
最初は自分のいる場所(霊廟)の恐ろしさに震える彼女。
しかし、ロミオの存在に気付き、彼に駆け寄ります。
目の前にあるのは明らかに生気のない夫の姿。手に持っているのは毒。事情を察した彼女は、毒を自分も飲もうとしますが、瓶は既に空の状態であり、唇に残っているかもしれない毒で後追いをしようと試みます。


キスをして泣き叫ぶジュリエット。

JULIET:"Thy lips are warm. (あなたの唇、まだ温かい)"

物凄く残酷なシチュエーションだなと思います。

バレエでも、ロミオが死んだ直後にジュリエットが目を覚ますものがほとんどですが、まだ唇に温かさが残っているほど僅かな時間差で愛する人が(誤解をしたまま)命を断ったとしたら、「止められたかもしれない」「自分達は幸せになれたかもしれない」と言う想いで悔やんでも悔やみきれないだろうと思います。


(パドドゥから一連の流れで、このニアミスを私達は目の当たりにし、結末が分かっていながらもヤキモキとさせられるのです。)


躊躇わずに短剣で自分の胸を刺し、ロミオの後を追うジュリエット。
その場に崩れ落ちながらも、何とか這いつくばってロミオの側へと近付いて行き、そして彼の手を取って死んでいく姿は、最初の愛らしい少女の姿からは想像も出来ないほどに壮絶です。


ジュリエットは僅か数日間で、一気に大人への階段をかけあがっていきます。
都さんのジュリエットは、物語を通してどんどんと強く逞しく成長していく姿が圧巻でした。
シャイで内弁慶のようだったジュリエットが、恋を知り、与えられるのではなく自分で選んでいく術を覚え、守ってもらうのではなく守る強ささえも手にしていく。
でも、全くの別人へと成長しているのではなく、登場シーンから一貫してそこにあったジュリエットの一途さ、まっすぐさ、少女らしさはずっと失われずに存在していて、これが数日間の出来事であることをリアルに感じました。


英国ロイヤル・バレエ団
「ロミオとジュリエット」

2010年6月27日(日) 18時開演
東京文化会館

ジュリエット:吉田都
ロミオ:スティーヴン・マックレー

マキューシオ:ブライアン・マロニー
ティボルト:トーマス・ホワイトヘッド
ベンヴォーリオ:セルゲイ・ポルーニン

パリス:ヨハネス・ステパネク
キャピュレット公:ギャリー・エイヴィス
キャピュレット夫人:ジェネシア・ロサート

エスカラス(ヴェローナ大公):ベネット・ガートサイド

ロザライン:タラ=ブリギット・バフナニ

乳母:クリステン・マクナリー
僧ロレンス:アラステア・マリオット

モンタギュー公:アラステア・マリオット
モンタギュー夫人:ローラ・マッカロク

ジュリエットの友人:リャーン・コープ、べサニー・キーティング、イオーナ・ルーツ、
エマ=ジェーン・マグワイア、ロマニー・パジャク、サマンサ・レイン

3人の娼婦:ヘレン・クロウフォード、フランチェスカ・フィルピ、ラウラ・モレーラ

マンドリン・ダンス:ホセ・マルティン、
ポール・ケイ、蔵健太、ミハイル・ストイコ、アンドレイ・ウスペンスキー、ジェームズ・ウィルキー

舞踏会の客、街人たち:英国ロイヤル・バレエ団


指揮:ボリス・グルージン

演奏:東京フィルハーモニー交響楽団


幸せいっぱいのシーンで幕を閉じた1幕。
休憩を挟んで始まった2幕は、再びヴェローナの街中(広場)です。

相変わらずつるんでいるロミオ、マキューシオ、ベンヴォーリオですが、ロミオはジュリエットのことを考え、心ここにあらず、と言った様子。


そこに、ジュリエットからの手紙を預かった乳母が現われます。
「ロミオさんはどちら?」と尋ねる彼女を、「私がロミオです」「いやいや、私こそロミオ」「本物は私」とからかう3人。

すったもんだの末、ようやく手紙はロミオ本人のもとに渡りますが、そこにはジュリエットから結婚を承諾する旨が書かれていたため、大興奮のロミオは乳母に抱きつき、彼女の周りを高速のシェネでぐるぐると回って、ロレンス神父のもとへと走り去ります。

スティーヴンのこのシェネが、思わず拍手が沸くほど、本当に凄かった!
フィギュアスケートのスピンみたいに物凄い速さで竜巻のようにぐるぐると回り、乳母だけでなく観客をも煙に巻いていなくなってしまいました!!


ところで、キャスト表を見ると、ロレンス神父を演じているのは、モンタギュー公と同じ人だったので、それを知った上で見ると、ちょっと不思議な感じがしました。

(モンタギュー公にとっては息子である)ロミオとジュリエットの手を、ロレンス神父がしたようにモンタギュー公もしくはキャピュレット公が重ね合わせることが出来たのであれば、2人は死を選ばずに済んだのに・・・。


秘密の結婚式を挙げた2人。

しかし、皮肉にも広場に戻ったロミオが目にしたのは、ティボルトと争う親友マキューシオの姿。
急にキャピュレット家と戦うことを避けようとし始めるロミオに痺れを切らした彼は、ティボルトと決闘を始めます。

何とか止めようとするロミオですが、マキューシオはティボルトの剣についに倒れてしまいます。
最期までふざけ、強気な態度を崩そうとしないマキューシオですが、絶命の直前、ティボルトとロミオをそれぞれ指差しながら、「お前たちの諍いに巻き込まれて俺は死ぬ」と言い残し絶命します。


MERCUTIO: "A plague o' both your houses!(両家ともくたばってしまえ!)"


呆然とするロミオ。親友の死を目の前に、ティボルトへ復讐を挑んでしまいます。
怒りに身を任せてぶつかってくるロミオの剣に倒れ、崩れ落ちるティボルト。
息絶えるその瞬間まで、果敢にロミオに挑もうとする彼の執念がすさまじいです。

(ティボルト役のトーマス・ホワイトヘッドは物凄い迫力で身体を投げ出しロミオの方へ振りかかろうとするので、既に剣を捨てて捨て身の状態のロミオにこのまま届いてしまうのではないかと少しヒヤヒヤしました!)


そこに駆けつけたキャピュレット夫人。
横たわるティボルトの姿に我を忘れてロミオへと掴みかかり、仇を取ろうとする彼女は自分の胸を掻き毟りながら激しく慟哭し、左右に身体を投げ打ちまわりながら悲しみを訴えます。

ティボルトはキャピュレット夫人にとっては甥(ジュリエットにとっては従兄)にあたる人物ですが、その余りにも激しい取り乱しぶりは、2人の仲がただならぬものだったと言う説を象徴しているかのようでもありました。

キャピュレット夫人を演じていたジェネシア・ロサートの演技には圧倒されました。
終演後にサインを頂いた時にはとても穏やかで優しい雰囲気に溢れていましたが、本当に同一人物とは思えないほど激しく、近寄り難く、それでいて気高く美しかったです。


マンチュアへと追放されることになったロミオは束の間の時間をジュリエットと共に過ごします。

電撃的に恋に落ち、出会った次の日に結婚した2人は、夫婦になってすぐに離れ離れにならねばならなくなったのです。


一夜を共にしたジュリエットはロミオが去っていった方向を眺めながらしばし想いに耽りますが、そこに両親がパリスを伴って現われます。

ティボルトの死と言う悲しい出来事を、ジュリエットの結婚と言う幸せで埋めようとするキャピュレット夫妻(両親は、ジュリエットが涙に暮れている理由が従兄を失ったからだと思っているので、娘を元気付けるためにも結婚を早めたのです)。
しかし、彼らは想像もしていなかったような娘の激しい抵抗に遭います。

従順だった娘の頑なな反抗。
そして、娘のためを思って理想的な結婚相手を選んだのに、それを頑として拒む様子に、キャピュレット公は激怒します。

「自分に従わないのであれば勘当する」と言い渡され、絶望感に襲われるジュリエット。
再びロミオの去っていった方角を見つめ、助けを求めにロレンス神父の元を訪れます。


そこで彼女はあの「仮死状態になる薬」を貰うのです。

薬を手に部屋へと戻ったジュリエットの元に、再びキャピュレット夫妻とパリスが現われます。
ロレンス神父から「パリスとの結婚を承諾しなさい(ロミオと結ばれる作戦の一部として)」と言われていたジュリエットですが、ここでも最後の抵抗を試みます。
(イライラするキャピュレット公に強く腕を掴まれる様子が痛々しい・・・)

パリスと無理矢理に踊らされるジュリエットは、魂の消えた人形のよう。
だらりと両腕を垂れ下げ、氷のように冷め切った顔からは表情さえも消えてしまっています。
それでも時折生気が宿るかのように、ロミオの消えた方向に手を差し伸べては引き戻されてしまう・・・最終的に、パリスとの結婚を承諾した彼女は、再び1人きりになり、あの薬を飲もうとします。

得体の知れない薬に恐怖を抱きつつも、ロミオへの愛のため、恐ろしさを克復して一気に飲み干し倒れるジュリエット。


JULIET: "If all else fail, myself have power to die. (もし全てが失敗に終っても、自らの命を断つ力は残されているわ)"

吉田都さんの英国ロイヤル・バレエ団引退公演でもある「ロミオとジュリエット」を観て来ました。


(吉田都さんについて書き始めるとエンドレスになってしまうので、今回は「ロミオとジュリエット」の舞台に絞って書きたいと思います。)


大好きなダンサーの引退公演の演目が大好きな「ロミオとジュリエット」で、しかも大好きな英国ロイヤル・バレエ団と共に上演される、と言う奇跡のような組み合わせ!


チューニングの段階から、心の中がザワザワと騒ぎ立てていたのは言うまでもありません。


幕が上がると、そこはヴェローナの街。
この頃のロミオはまだロザラインに恋をしており、冷たくあしらわれても夢見がちに彼女を追いまわしています。


今回ロミオ役を踊ったのは、スティーヴン・マックレイ。
先日、ロンドンでの都さんの引退公演(「シンデレラ」)でもパートナーを務められた方です。


ロミオとマキューシオ、ベンヴォーリオがつるんでいると、そこにティボルト率いるキャピュレット家の人達が現われます。
すぐに些細な小競り合いはモンタギュー家とキャピュレット家の争いへと発展。
キャピュレット公とモンタギュー公までもが剣をぶつけ合います。

そこにヴェローナ大公エスカラスが現われ、一旦両者の諍いは強引に中断され、互いに剣を捨てて握手をするように求められます。
憎憎しげにそれに従う男性達。
このシーンで好きなのは、モンタギュー夫人とキャピュレット夫人が醸し出す「静かな中にも火花がバチバチと飛び交う」激しい対抗意識です。


その後、物々しい場面は一変し、13歳の少女ジュリエットが登場します。
乳母をからかい、彼女に抱きつき、人形と戯れるその姿はまさにまだ幼い少女そのもの。
都さんのジュリエットは、目がキラキラと悪戯に輝き、弾むように軽やかで、少しお転婆な印象さえ感じました。

その一方で、母親であるキャピュレット夫人が自分の部屋に来ることが分かると慌てて身なりを正して丁寧にお出迎えする分別の持ち主でもあります。
自分が取るべき態度、自分に求められていることが分からないほど子供でもなければ、急に現われた求婚者パリスの存在をすぐに受け入れられるほど大人でもない、と言うまさに過渡期にいる少女の心の動きがヒシヒシと伝わってきました。


まだ、ロミオと言う愛に出会っていないジュリエットがパリスに投げかける視線は、恥ずかしげではあるものの、優しさを含んでいます。
この時点では、ジュリエットにとってパリスは少なくとも負の存在ではなかっただろうし、そのままロミオと出会わなければその愛を受け入れたのかもしれません。

でも、彼女は恋と言うものを知ってしまい、そして世界がロミオでいっぱいになってしまった。
突然自分へ敵意とも見える態度を見せるようになったジュリエットの様子に、パリスは訳が分からず困惑したのではないかと思います。


キャピュレット家の舞踏会は、キャピュレット公、キャピュレット夫人、ティボルト、パリス、ロザラインを中心に堂々たる厳かな踊りで始まります。(このシーン、その迫力に毎回ゾクゾクするので大好きです!)
ロミオは相変わらず何とかロザラインの気を惹こうと必死ですが、まともに相手にはされていません。


そこに登場するジュリエットとパリス。
パリスに脇を支えられながらジュリエットがグランジュッテをする様子は、本当にふわりと宙に浮いているようで、夢のように美しかった!
ロザラインを追いかけていたはずのロミオは、ジュリエットの存在に気付き、一瞬にして眼も心も彼女に奪われてしまいます。


シェイクスピアはこのシーンでロミオに


ROMEO: "Did my heart love till now? For swear it, sight! For I ne'er saw true beauty till this night. (今まで心で恋をしたことがあっただろうか?眼よ、ないと誓え。今宵私は初めて真の美を目にしているのだから。)"

と言う台詞を与えていますが、マクミラン版のこのシーンではロミオはまさにこの言葉を体現しているように思います。


お互いから目が離せなくなってしまう2人。
彼らは舞台の上手と下手に大きく離れ、その間には最初と同じように堂々と踊るキャピュレット家の騎士達、ジュリエットの後ろにはパリスがいます。
それでも、2人以外の人達には一切のライトがあたっていないかのように、見つめ合うロミオとジュリエットの姿だけが舞台上に浮き出て見えます。


恋をすべきではない相手(家の仇)であることを互いに知った後も、2人はもう気持ちを抑えることなど出来なくなってしまいます。


ロミオのことを思い出しながらうっとりとバルコニーに姿を現すジュリエット。
そこに、黒いマントを翻したロミオが登場します。

マクミラン版の「ロミオとジュリエット」では、作品全体を通してどこをとってもシェイクスピアの言葉が溢れ出しているように感じますが、バルコニーのシーンでもやはり、元々の台詞がとても大切に表現されていると思います。

スティーヴンと都さんのパートナーシップは息を呑むほど音楽的で、高速のピルエットやリフトがぴったりの呼吸で決まっていく様は、爽快と呼べるほどでした。
心地よく張り詰めた緊張感、そして早足で疾走するかのようなスピード感。
恋を知った喜びや相手への溢れる想いを抑えられない2人の気持ちが痛いほどに伝わってきました。


ROMEO: "O, wilt thou leave me so unsatisfied?(満たされぬままの私を置いていかれるのですか?)"

JULIET: "What satisfaction canst thou have tonight? (今宵、一体何をお望みだと仰るの?)"

ROMEO: "The exchange of thy love's faithful vow for mine. (あなたから私への誠実な愛の誓いを)"

JULIET: "I gave thee mine before thou didst request it. And yet I would it were to give again. (それなら求められる前にあなたに差し上げましたわ!でも、もう一度あげられたら良いのに)"

ROMEO: "Wouldst thou withdraw it? for what purpose, love? (取り消すおつもりですか?愛しい人、それは一体何のためなのです?)"

JULIET: "But to be frank, and give it thee again. And yet I wish but for the thing I have. My bounty is as boundless as the sea, my love as deep; the more I give to thee, the more I have, for both are infinite. (気前良く、もう一度あなたに差し上げるためですわ!私の持っているもの全てをあなたに捧げたい。私の想いは海のように無限で、私の愛は海のように深いのです。あなたに差し上げれば差し上げるほど、増えていく・・・どちらも限りがないのです)"

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