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思わず聞いてしまった隣のテーブルの会話、いきなり話しかけられて思わず友達トーク…。
だけど、アナタとアタシの接点に、過去もなければ未来もない。だって、私たちはアカの他人だもの。
そんな“通りすがり”の関係の中で起こった事件簿です。

人生を変えるヒトコトというものがある。
と言っても、別にプロポーズの話ではない。


19歳の頃、アタシはヨーロッパを1人旅した。
旅のテーマは"生きやすい場所探し"。
当時、ドイツ語を勉強していたこともあり、ドイツ語圏中心に旅をした。


ドイツは町の中に音楽や美術の中に生活がある。
そんな印象を受けていたアタシは、「ドイツに住んでみよう」という気になり始めていた。


ドイツの列車はコンパーメント方式。ちょっとした隔離された空間をシェアするため、見知らぬ人との会話が生まれやすい。


ドイツ語を勉強し始めたばかりなのだと言うと、皆、つたない発話をしっかりと聞いて、わかりやすい単語を選んで話してくれたから、随分といろいろな話ができた。


そんな親切なドイツ人の1人に面倒見の良いおばあちゃんという感じの女性がいた。「R」の巻き舌が足りないと、レッスンまでしてくれた優しいおばあちゃんだったが、アタシのヒトコトで急に目尻がつり上がった。

 それは......

一人旅しているの。


まあ!ご両親は知っているの?
え?知らない?
あなた、家出なの?
じゃあ、行くあては?
まあ!明日からの予定を決めていないなんて!


この時の旅がアタシにとっての初めての海外旅行。さらに日本国内でも1人旅をしたことがなかった。

両親に伝えていなかったのは、そんなアタシがいきなり海外で1人旅することを知ると絶対に反対されると考えていたから。それは確かに悪いよ。


でも、バックパッカーで先々のことをあまり計画立てしない旅っていうのは、普通じゃないの?

なんでこんなに叱られてるの?アタシ......。


だいたいあなたいくつなの?
え?20歳?
え〜!! 中学生かと思ったわ。


......20歳というのは1歳サバ読みだけど、中学生というのはドイツ流のジョークなのだろうか?


その答えがあったのは、ドイツのデパート。
持っていた衣類では寒かったので、セーターを買い足しに行った時のことだ。
いろいろ探してもかなり大きなサイズのものしかない。

「すみません。私が着るセーターを探しているのですが......」と店員さんに相談すると、「ちょっと待ってください」と、彼女がセーターを持ってきてくれた。

...っが、このセーター、くっくまちゃん?

「あのぉ、熊はちょっと......」。
「じゃあ、こちらは?」

っと、差し出されたのはうさぎのセーター


ティネージャーは大人っぽく見られたいものだ。
その上、小柄なことをコンプレックスに感じていたアタシは、「幼く見えてしまうこの国では仕事が見つからないカモ」と、ドイツ移住への気持ちが少しずつフェードアウトしていったのだ。


今の年齢で同じ体験をしたなら、また、答えは違ったと思うのだけど。

香港に住んでいる時、アタシはいろいろな香港人に声を掛けられた。

とはいえ、アタシは美人でも、体型が特別目立つわけでもない。
老若男女問わず、声を掛けられた理由、それは...


明らかに日本人だったから。


当時のアタシは、ライターや編集、翻訳の仕事をしていた。
一所にじっとしていられないタチのアタシは、仕事が行き詰まると、人の声がざわざわとするカフェやファーストフードに出掛け、そこで仕事がした。

「うるさいところでは集中できない」というが、アタシの場合、うるさい場所での方が集中力が増し、仕事がはかどる。


そんなわけで、日本語の資料をどばっと広げ、パソコンの前で自分の世界に入るアタシは、一目で日本人とわかるわけだ。

日本語の資料を広げていなくても、顔が「きみは典型的日本人だからすぐにわかる」という香港人の友人もいる。


なにはともあれ、親日家の多い香港。
日本小姐(日本女子)がいるとわかると、話しかけたくなる香港人は多いようだ。


「あなたは、日本人ですか?」と、直接的に尋ねてくる人もいれば、「コンニチハ、サヨナラ、オゲンキデスカ?」と、自分の知っている日本語を口にして、アタシの関心を引こうとする間接ワザでくる人もいる。

ただ、大変申し訳ないのが、こういう時のアタシは大抵てんぱっている。
締め切りが迫り、焦っている時がほとんどなので、きちんと応対する余力がない。


自分でも嫌なヤツだなと思うのだが、そういう時、アタシは英語で「え?何ていいました?」と、聞き返す。本当に嫌なヤツだ。

そうすると大抵「あ、すみません」と諦めてくれる。


ただ、それでも粘ってくれた人もいる。
FFF(ファースト・フード・フレンド)と勝手に命名した友人2人だ。

1人は母の年齢と変わらない女性
日本人と結婚していて日本語も話せる。

その後、週に1度は会っていたほど、仲良くなった。取材の際の人探しでもすごくお世話になったし、引っ越しで困った際にもいろいろ助けてくれた。


そんな彼女とファーストフードで日本語で会話している時に、声を掛けてきたのがもう1人のFFFである女子高生

日本のドラマが大好きで、日本語名をつけてくれというので、当時、香港で絶大な人気を誇っていた日本人女優の名前をとって「ななこちゃん」と名付けた。

以降、時々電話がかかってきて「もしもし、先生?(アタシのこと。日本語を教えていたので)ななこよ」と、アタシがつけた日本語名を使ってくれていた。


2人との関係は、帰国して4年たった今も続いている。


そう考えると、日本人でないふりしてしまったために、一体どれだけの出会いのチャンスを逃してしまったのか...。
心に余裕がないと、通りすがりはタダのアカの他人にすぎないのだ。

30分くらい待った後、領事に会うことができた。
しかし、それは取材のアポを取るための面会ではなく、取材そのものだった。

取材モードではなかった私は少し焦ったが、聞きたいことはすでに決まっていた。

「ナイジェリアでは、なぜ幸せを感じる人が多いのですか?」

この取材を行なったのは、2003年度の"世界でもっとも幸せだと感じる人が多い国"調査結果が発表された直後のこと。この調査で、ナイジェリアが世界1になったのだ。

ニュースから伝わってくるナイジェリアの現実に、幸せを感じる人がなぜ多いのか、正直なところ、不思議でならなかった。


「お待たせして申し訳なかったね」。
「いえ、スタッフの方に親切にして頂いたので。それにしても、多いんですね。スタッフの方。待ち合い室で5、6人の方にお声掛け頂いたんですよ」。
「え? あ、それはスタッフではなくて、手続きに来た人だと思いますよ」。


え?スタッフではなく、手続きに来た人が声をかけてくれていたの?


あまりに驚いたアタシは、驚いたままの勢いで、領事に尋ねた。
そして、領事はアタシの驚きぶりに驚いて...。

「大変失礼だが、あなたは外見からナイジェリア人には見えない。外国人なら言葉の問題もあるだろうから、手続きに困ったりしていないか、心配になるのが普通ですよね?」


見知らぬ外国人に親切に声をかけてくれる人たちに驚いた自分がなんだかハズカシイ。


アタシにとって、通りすがりの人は基本的に"アカの他人"。
明らかに困っている様子が伺えたりしない限りは、声をかけたりしない。


でも、ナイジェリア人にとっては----少なくとも、声をかけてくれた人たちは----通りすがりの人々は、単なるアカの他人ではなかったようだ。


話を聞いた領事の話では、ナイジェリアでは失業してもそれほどクヨクヨしないのだと言う。


「お金がないのは、問題。でも、それは悩みじゃないから」。


お金がないからと言って、バーに飲みに行くことを諦めるわけではない。お酒を飲みながら、誰かと語りたければ、とりあえずバーに行く。すると必ずお金を支払ってくれる"誰か"がいる。それを気にすることはない。仕事が見つかって、またお金が出来た時に、お金のない"誰か"におごればいいだけの話なのだから。


これがイイコトなのかは、正直、アタシにはわからない。
でも、"アカの他人≦通りすがり≦友達"であることが、ナイジェリア人の幸せ感に多少なりとも影響を与えていることには違いなかった。


アタシにとって、通りすがりの人って何だろう?

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