PLUGGED WEB MAGAZINE PLUGGED WEB MAGAZINE

2009年11月アーカイブ


 数年前、香港で記者をしていた頃、月に一度、アジアのリゾート地を紹介するコラムを持っていた。
5ツ星ホテルのスイートに泊まったり、リゾート地の裏側を垣間見れたり、
観光業を活性化させたい国の観光局の人たちに観光客としての意見を述べたり...。

アタシの個人旅行では、絶対に体験しえないことばかりで、毎回、興奮気味。

でも、一度、特集記事のために1ヵ月のほとんどをホテルで過ごし、家に帰れないときがあった。その時ばかりは、狭い部屋が自分の小さな城のように思えて、何だか泣けた。
何が一番辛かったのかといえば、食事のコト。
 旅行記事には食べ物についての情報が必須であるため、どこに行っても、そこでオススメの品(アピールしたい食べ物)をいろいろ食べさせてくれる。

 しかし、残念なことに、庶民の胃袋を持ったアタシは、高級料理が続くと、胃がびっくりして対応しきれなくなってしまうようだ。特に九州で育ったアタシの胃袋は、薄味好み。味付けが強くなりがちな高級料理の連続に、胃が悲鳴をあげていた。
それでも、記者を精一杯もてなそうとする広報担当者の前で、「食べられない」とは口が裂けてもいえない。

 一連の取材の最後は、クルージング船での1泊2日の旅だった。

「これが終われば、普通の食生活に戻れる...」。

 うれしことに、この時の取材では、レストランの取材は別途時間が設けられていて、わたしの食事時間には、広報担当者が同席しないということだった。
足を運んだのは、ごく普通のビュッフェ。
 サラダのコーナーで、レタスやトマトを少しだけ皿に盛り、ドレッシングもかけずに食べていた。
 食欲のない一人っきりの食事。ついつい耳は周囲の声を拾った。

 この船は、夕方、香港を出発し、翌朝、香港に戻ってくるクルージングで、香港の領海を出るとカジノができることがウリになっていた。そのため、マカオ同様、中国大陸からの観光客が目立った。
 隣の席に座った年配の女性2人も中国大陸からの観光客であるようだった。
「やっぱり、食事で元を取らなくっちゃね」

「他に何がタダなんだっけ?」

クルージング船の費用には、一部店舗をのぞいたレストランでの食事代やサウナ、プール、一部エンターテイメント費等が含まれていた。だから、「払った費用分はしっかり食べなきゃ」ということらしい。
たくましいなぁ〜。

 彼女たちが中国大陸からの旅行客であることは、聞こえてきた言語が北京語であっただけでなく、外見からもすぐに見分けがついた。「中国○△旅行社」と書かれたおそろいの帽子をかぶっていたからだ。

 一般的に、中国人は個性的であるため、協調性がないと言われているが、日本国内でもおそろいのグッズを身につけている旅行客を多く見かける。
  ツアーで配られる小さなバッジですら、あまり積極的に付けたがらないアタシの方がよっぽど協調性がないのかもしれない。
 そんなことを考えていると、再び彼女たちの声が耳に入ってきた。

「あれじゃあ、全然元が取れてない」。
 
「どれ? あー、ホントだ。あんなんじゃ全然ダメだ」。

  おっと、彼女たち、すごいダメだしをしている。
「あんなに野菜ばっかりじゃ、全く元を取れてないよ」。
 
「本当。あんな量じゃ、全然無理だね」。

えっ...。 それって、もしかして、アタシのことですか?

他人の会話に、いつも心の中で"チャチャ(ツッコミ)"を入れているアタシだったが、その会話の中で、アタシの行動に"チャチャ"入れられるとは!

「胃袋が過労死寸前なんだから、アタシのことなんて、ほっといてほしい」
と、心の中で叫びつつ、アタシはなぜだがもう一度、ビュフェコーナーに足を運んでしまった。  お刺身のコーナーで、つるんと飲み込めそうなものをいくつか野菜に乗せ、戻って来た。
「この後はどうする?」
「ギャンブルは何時からできるんだっけ?」
 もはや、オバサマ方の関心はアタシにはなかった。その場に残されたアタシは、お皿に盛ってしまった料理の責任をとるため、"おかわり"を後悔しながら、もくもくと食事を続けた。

友達の○さんに似ている!」
 「取引先に似ている人がいるよ!」
 それがアタシ。

アタシの特徴2:どこにでもいる平均的な日本女子像。

その外見からか、アタシは見知らぬ人に親しげに声を掛けられることが多い。と言っても、ナンパではない。硬派を越え、時には相槌に困るほどの重い話をふられることもある。
そして、その傾向は、"赤ちゃん"という肩書きの娘と一緒に行動するようになって一層強まった。

 「かわいい赤ちゃんね。おいくつなの?」
 総合病院で検診を終え、大きな待ち合い室で会計を待っていると、50代くらいの女性から声を掛けられた。
 「6ヶ月です...」
 そう言い終わらないうちに、おばさんは自分と息子の物語を話し出した。

 「うちの子もそのくらいのとき、かわいかったのよ。ほら、私、女手ひとつで育てたじゃない?あの子は本当にママっ子だったから...」。

 「ほら~じゃない?」っていうのは、アタシに話しかけてくれる人の定型会話パターン。
 「ほらっ」って言われても初対面。なんて返答すればいいの?

 「ママっ子だったんですね」。

 そんなあいまいな相槌は必要がないほど、おばさんのトークは勢いを増す。

 「親孝行な息子でね。すごく優しいのよ。でもね、ほら、去年、中国に行っちゃったじゃない?あれからなかなか連絡くれなくなっちゃってね...あんなに大切に育てたのに...」。

 うわっ。何だろう...急に重たくなったこの空気感。

 「きっきっと、中国だから、電話したくでも電話回線に問題があるんですよ」。

 ごめん、中国!とっさに口が中国のせいにしてしまった。

 「そうなのよ!中国はね、ほら、まだ電話(回線)がちゃんとしてないでしょ。仕方ないのよ、息子は連絡したくてもできないのよ!」。
 
 おばさんに笑顔が戻った。
 アタシ、ちょっとイイコトした?

うるさいと集中できないという人が多い中、アタシはなぜだか周りがうるさい方が集中できる。
ただし、うるさい原因は音楽ではなく、人の話し声でなければならない。音楽がかかっていると、それがたとえインストュルメンタルの曲でも、一緒に鼻歌を歌ってしまうから。

だから、仕事中に行き詰ると、ザワザワしたカフェ等に出掛け、そこでパソコンと資料を広げる。

アタシの特徴1:人の話し声がするところの方が集中できる。

たいていの場合、周りの雑音が聞こえなくなるほどの集中力が発揮でき、気が付けば、お仕事完了。でも、うまく集中できないと、他人の会話に侵入を試みてしまう。

スライド1.jpg

その日も、原稿書きに行き詰まり、近所のカフェに足を運び、パソコンに向かっていた。しかし、ふと気が緩んだ瞬間、隣のテーブルの会話が聞こえてきてしまった。ティーンと思われるカップルだ。

「彼女、まだ、あなたのこと、忘れられないって」。

そう言ったティーンの女の子は、男の子の手をぎゅっと握る。
あれ? このシチュエーション、何だかおかしくない?

黙りこくった男の子に、女の子は甘えた声で続ける。

「ねえ。私、どうしたらいい? あなたとよりを戻したいっていう相談を彼女から受けているの。」

男の子、沈黙。
女の子、一層甘ったるさを増した声で、「よりなんて、もう戻せないのにね。」

ゲホホホ。アタシ、コーヒーをむせる。

今風にかわいくいえば、彼女は小悪魔。
友達の彼を、友達の知らないところで横恋慕。しかも、その友達の恋愛相談にのっているようだった。

アタシの席から見えるのは、彼氏の顔だけで、横並びに座った彼女の顔を見ることは――特にタイミング良く、コーヒーをむせった後だけに振り返るのは――難しい。

幸いなコトに――幸いなのは、女友達とアタシの友情が堅かったからなのか、単にオトコの趣味が違っただけなのか――友達の彼を横取りしたことも、逆に横取りされたことも、アタシには経験がない。

 友達から彼を奪っておいて、相談にのっている。そんな小悪魔ちゃんは、一体どんな容姿なのか?
見たい。彼女の顔が見たい。

アタシから見える彼女は、彼氏の手に重ねた手だけ。白くてふっくらした手からは、彼女が痩せ型でないことくらいしか想像がつかない。

「私ね、勉強がんばる。恋も勉強もがんばって、皆に認められたいの」。


出たっ!青春。

"オバサン"に片足突っ込んだアタシは何だか赤面しちゃうけど。こんなセリフは、ティーンならではの特権。

「ね、一緒にがんばろうよ。皆に素敵なカップルって認められよう!」


「...俺、無理...かな...」。

 重い口をやっと開いたかと思えば、彼の口から出たのは、草食系を臭わすセリフ。
 それとも彼の方は、捨てた元彼女のことに罪悪感を感じているのか?

 聞きたい。彼の真意を。

 気が付けば、アタシは作業をしていたファイルの上に新規ファイルを立ち上げ、隣のテーブルで交わされる会話の一部始終をメモしていた。

「彼女に本当のコト、言うべきかなぁ?」

 彼氏、無言で机にうつぶせる。

 ダメだ。彼女の顔が見てみたい!
欲望に負けたアタシは彼女の方を見た。

「そろそろ行こっか」。

タイミング良く、いや、タイミング悪く、彼女は立ち上がり、顔を見ることができなかった。

 消えそうなくらいに低いテンションの彼とは対照的に、彼女の後ろ姿からは、抑えきれない幸せで溢れていた。
 
あっ!ちょっと、待って!
続きはどうなるの?
こんなにおもしろい話、今後の展開がとっても気になるのだけど。

...心の中で叫んでみても、アタシ達は所詮、ただの通りすがり。

必死にメモした青春版愛憎ストーリーは、連載の途中で打ち切りされた形で終わった。

  • 女性編集者が立ち上げた女性のための健康情報ポータルサイトjoself(ジョセルフ)
  • ママのハッピーライフを応援する女性のための情報サイト

PLUGGED WEB MAGAZINE

PLUGGED WEB MAGAZINE最新号

  • http://www.llp-plugged.com/project/ruive.jpg

MAMA-PLUG商品開発部
  • BAM BOO BOO
    「機能的でカワイイ!」世界を変えるお弁当箱
  • F+A
    「お互い様」の心を育てる救急箱
  • REUSE
    リユース・エコ・で子どもに優しい洋服開発