うるさいと集中できないという人が多い中、アタシはなぜだか周りがうるさい方が集中できる。
ただし、うるさい原因は音楽ではなく、人の話し声でなければならない。音楽がかかっていると、それがたとえインストュルメンタルの曲でも、一緒に鼻歌を歌ってしまうから。
だから、仕事中に行き詰ると、ザワザワしたカフェ等に出掛け、そこでパソコンと資料を広げる。
たいていの場合、周りの雑音が聞こえなくなるほどの集中力が発揮でき、気が付けば、お仕事完了。でも、うまく集中できないと、他人の会話に侵入を試みてしまう。
その日も、原稿書きに行き詰まり、近所のカフェに足を運び、パソコンに向かっていた。しかし、ふと気が緩んだ瞬間、隣のテーブルの会話が聞こえてきてしまった。ティーンと思われるカップルだ。
そう言ったティーンの女の子は、男の子の手をぎゅっと握る。
あれ? このシチュエーション、何だかおかしくない?
黙りこくった男の子に、女の子は甘えた声で続ける。
男の子、沈黙。
女の子、一層甘ったるさを増した声で、「よりなんて、もう戻せないのにね。」
ゲホホホ。アタシ、コーヒーをむせる。
今風にかわいくいえば、彼女は小悪魔。
友達の彼を、友達の知らないところで横恋慕。しかも、その友達の恋愛相談にのっているようだった。
アタシの席から見えるのは、彼氏の顔だけで、横並びに座った彼女の顔を見ることは――特にタイミング良く、コーヒーをむせった後だけに振り返るのは――難しい。
幸いなコトに――幸いなのは、女友達とアタシの友情が堅かったからなのか、単にオトコの趣味が違っただけなのか――友達の彼を横取りしたことも、逆に横取りされたことも、アタシには経験がない。
友達から彼を奪っておいて、相談にのっている。そんな小悪魔ちゃんは、一体どんな容姿なのか?
見たい。彼女の顔が見たい。
アタシから見える彼女は、彼氏の手に重ねた手だけ。白くてふっくらした手からは、彼女が痩せ型でないことくらいしか想像がつかない。
"オバサン"に片足突っ込んだアタシは何だか赤面しちゃうけど。こんなセリフは、ティーンならではの特権。
重い口をやっと開いたかと思えば、彼の口から出たのは、草食系を臭わすセリフ。
それとも彼の方は、捨てた元彼女のことに罪悪感を感じているのか?
聞きたい。彼の真意を。
気が付けば、アタシは作業をしていたファイルの上に新規ファイルを立ち上げ、隣のテーブルで交わされる会話の一部始終をメモしていた。
彼氏、無言で机にうつぶせる。
ダメだ。彼女の顔が見てみたい!
欲望に負けたアタシは彼女の方を見た。
タイミング良く、いや、タイミング悪く、彼女は立ち上がり、顔を見ることができなかった。
消えそうなくらいに低いテンションの彼とは対照的に、彼女の後ろ姿からは、抑えきれない幸せで溢れていた。
あっ!ちょっと、待って!
続きはどうなるの?
こんなにおもしろい話、今後の展開がとっても気になるのだけど。
...心の中で叫んでみても、アタシ達は所詮、ただの通りすがり。
必死にメモした青春版愛憎ストーリーは、連載の途中で打ち切りされた形で終わった。

