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TITLE : それって、アタシのこと?

 数年前、香港で記者をしていた頃、月に一度、アジアのリゾート地を紹介するコラムを持っていた。
5ツ星ホテルのスイートに泊まったり、リゾート地の裏側を垣間見れたり、
観光業を活性化させたい国の観光局の人たちに観光客としての意見を述べたり...。

アタシの個人旅行では、絶対に体験しえないことばかりで、毎回、興奮気味。

でも、一度、特集記事のために1ヵ月のほとんどをホテルで過ごし、家に帰れないときがあった。その時ばかりは、狭い部屋が自分の小さな城のように思えて、何だか泣けた。
何が一番辛かったのかといえば、食事のコト。
 旅行記事には食べ物についての情報が必須であるため、どこに行っても、そこでオススメの品(アピールしたい食べ物)をいろいろ食べさせてくれる。

 しかし、残念なことに、庶民の胃袋を持ったアタシは、高級料理が続くと、胃がびっくりして対応しきれなくなってしまうようだ。特に九州で育ったアタシの胃袋は、薄味好み。味付けが強くなりがちな高級料理の連続に、胃が悲鳴をあげていた。
それでも、記者を精一杯もてなそうとする広報担当者の前で、「食べられない」とは口が裂けてもいえない。

 一連の取材の最後は、クルージング船での1泊2日の旅だった。

「これが終われば、普通の食生活に戻れる...」。

 うれしことに、この時の取材では、レストランの取材は別途時間が設けられていて、わたしの食事時間には、広報担当者が同席しないということだった。
足を運んだのは、ごく普通のビュッフェ。
 サラダのコーナーで、レタスやトマトを少しだけ皿に盛り、ドレッシングもかけずに食べていた。
 食欲のない一人っきりの食事。ついつい耳は周囲の声を拾った。

 この船は、夕方、香港を出発し、翌朝、香港に戻ってくるクルージングで、香港の領海を出るとカジノができることがウリになっていた。そのため、マカオ同様、中国大陸からの観光客が目立った。
 隣の席に座った年配の女性2人も中国大陸からの観光客であるようだった。
「やっぱり、食事で元を取らなくっちゃね」

「他に何がタダなんだっけ?」

クルージング船の費用には、一部店舗をのぞいたレストランでの食事代やサウナ、プール、一部エンターテイメント費等が含まれていた。だから、「払った費用分はしっかり食べなきゃ」ということらしい。
たくましいなぁ〜。

 彼女たちが中国大陸からの旅行客であることは、聞こえてきた言語が北京語であっただけでなく、外見からもすぐに見分けがついた。「中国○△旅行社」と書かれたおそろいの帽子をかぶっていたからだ。

 一般的に、中国人は個性的であるため、協調性がないと言われているが、日本国内でもおそろいのグッズを身につけている旅行客を多く見かける。
  ツアーで配られる小さなバッジですら、あまり積極的に付けたがらないアタシの方がよっぽど協調性がないのかもしれない。
 そんなことを考えていると、再び彼女たちの声が耳に入ってきた。

「あれじゃあ、全然元が取れてない」。
 
「どれ? あー、ホントだ。あんなんじゃ全然ダメだ」。

  おっと、彼女たち、すごいダメだしをしている。
「あんなに野菜ばっかりじゃ、全く元を取れてないよ」。
 
「本当。あんな量じゃ、全然無理だね」。

えっ...。 それって、もしかして、アタシのことですか?

他人の会話に、いつも心の中で"チャチャ(ツッコミ)"を入れているアタシだったが、その会話の中で、アタシの行動に"チャチャ"入れられるとは!

「胃袋が過労死寸前なんだから、アタシのことなんて、ほっといてほしい」
と、心の中で叫びつつ、アタシはなぜだがもう一度、ビュフェコーナーに足を運んでしまった。  お刺身のコーナーで、つるんと飲み込めそうなものをいくつか野菜に乗せ、戻って来た。
「この後はどうする?」
「ギャンブルは何時からできるんだっけ?」
 もはや、オバサマ方の関心はアタシにはなかった。その場に残されたアタシは、お皿に盛ってしまった料理の責任をとるため、"おかわり"を後悔しながら、もくもくと食事を続けた。
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