香港に住んでいる時、アタシはいろいろな香港人に声を掛けられた。
とはいえ、アタシは美人でも、体型が特別目立つわけでもない。
老若男女問わず、声を掛けられた理由、それは...
明らかに日本人だったから。
当時のアタシは、ライターや編集、翻訳の仕事をしていた。
一所にじっとしていられないタチのアタシは、仕事が行き詰まると、人の声がざわざわとするカフェやファーストフードに出掛け、そこで仕事がした。
「うるさいところでは集中できない」というが、アタシの場合、うるさい場所での方が集中力が増し、仕事がはかどる。
そんなわけで、日本語の資料をどばっと広げ、パソコンの前で自分の世界に入るアタシは、一目で日本人とわかるわけだ。
日本語の資料を広げていなくても、顔が「きみは典型的日本人だからすぐにわかる」という香港人の友人もいる。
なにはともあれ、親日家の多い香港。
日本小姐(日本女子)がいるとわかると、話しかけたくなる香港人は多いようだ。
「あなたは、日本人ですか?」と、直接的に尋ねてくる人もいれば、「コンニチハ、サヨナラ、オゲンキデスカ?」と、自分の知っている日本語を口にして、アタシの関心を引こうとする間接ワザでくる人もいる。
ただ、大変申し訳ないのが、こういう時のアタシは大抵てんぱっている。
締め切りが迫り、焦っている時がほとんどなので、きちんと応対する余力がない。
自分でも嫌なヤツだなと思うのだが、そういう時、アタシは英語で「え?何ていいました?」と、聞き返す。本当に嫌なヤツだ。
そうすると大抵「あ、すみません」と諦めてくれる。
ただ、それでも粘ってくれた人もいる。
FFF(ファースト・フード・フレンド)と勝手に命名した友人2人だ。
1人は母の年齢と変わらない女性。
日本人と結婚していて日本語も話せる。
その後、週に1度は会っていたほど、仲良くなった。取材の際の人探しでもすごくお世話になったし、引っ越しで困った際にもいろいろ助けてくれた。
そんな彼女とファーストフードで日本語で会話している時に、声を掛けてきたのがもう1人のFFFである女子高生。
日本のドラマが大好きで、日本語名をつけてくれというので、当時、香港で絶大な人気を誇っていた日本人女優の名前をとって「ななこちゃん」と名付けた。
以降、時々電話がかかってきて「もしもし、先生?(アタシのこと。日本語を教えていたので)ななこよ」と、アタシがつけた日本語名を使ってくれていた。
2人との関係は、帰国して4年たった今も続いている。
そう考えると、日本人でないふりしてしまったために、一体どれだけの出会いのチャンスを逃してしまったのか...。
心に余裕がないと、通りすがりはタダのアカの他人にすぎないのだ。

