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2009年11月アーカイブ


『REFUSED』
 という返事の来た宅急便を見ながら、辞書を引いた。

 拒絶。

 それでも人は信じられないものを見ると、嘘だと思うらしい。

 パスポートを何度も確かめた。だが、どこにもビザのスタンプは押されていない。

 なぜ? なぜ...!? 賞罰もなく、こじんまり暮らしていた真面目なアラフォーが、ビザを却下されなければならないの...!? 一体私の何が、法律に引っかかったの...!?

 英国の紳士との出会い、素敵な結婚、コル○ンブルーでフランス料理、料理研究家として本の出版、テレビの取材。

 それらの未来ががらがらと崩れ去る。
 お先真っ暗くーらくら、私の目の前も頭も判断力もくーらくらである。
 がんと頭をかち割られたようなショック。
 手も身体も震え、水をコップに満足に注ぐこともできない。

 全部で5、6枚程度の便箋が同封されており、何かが書かれているようだが、ちっともわからない。
 震える指で、留学を励ましてくれた友人に電話した。
「ちょ、ちょっと相談があるの」
「そうなの? 私今から泊まりがけでミカン狩りに行くんだけど。九段下に待ち合わせ3時だからそろそろ行かないと。そうそう、ミカン狩りに一緒に行く友達の中に、アメリカに10年住んでた人がいるのよ」

 1時間後。

 なぜかみかん狩りに同行している私がいた......。

「ひゃっほー!」
 この日のためにレンタカーを借りて、ミカン狩りに行く5人組。
 テンション高く人生を楽しんでいる5人の中で、一人顔色をなくしているアラフォー。
 ロンドンではなく、なぜか私の行先は伊豆。

 人生を迷い、行き先も迷い、流されるままになぜか伊豆......。

 英語ができるというその人が解読してくれたところによると、ここは強く言いたいが、私の非は全くないということ。学校側が用意した書類だけに問題があるとのことであった。
 私は少し胸を撫で下ろす。

 正確にビザが取れなかった理由を言うと。
 学校が用意した書類に、ビザ取得要件を満たす内容が記載されておらず、だから申請を却下したとのことで、それらが記載された書類を学校に用意してもらえば、取れる可能性があるとのことであった。

 なんだそんなの簡単なこと。もう一度やり直せばいいだけのこと。
 学校にその旨連絡すればいい。

 なあ~んだ。
 地獄から天国である。
 
 丸一日何も食べる気力もなかったのに、出された鮨をばくばく食べるアラフォー。

 結局、友人の友人という、初対面の人、その日に会った人の家で風呂まで入って、挙句の果てに泊めてもらうというおまけつき。
 タダで翻訳までさせて、ここまで図々しいと自分もあっぱれである。

 だが。

 ここからが地獄の始まりだったのだ......。

英国への留学。
 リストラ候補の私に見えた、一筋の光。
 しかも、アラフォーにとってこれは、結婚に向けての最後のチャンスかもしれない。
 会社と家との往復で、特に出会いもなく、コミュニケーションを取る場所もない。
 だが、英国に留学し、多少なりとも時間に余裕ができれば、コミュニケーションを取る時間もできる。
 アラフォーにもなって独身だと、世間や会社、後輩というものは何かある都度、「だからあの人結婚できないのよ」としゃくし定規に見下すものだ。
 それが英国に留学できれば、英国の紳士との出会いがあるかもしれない。
 英国の駐在員との出会いがあるかもしれない。
 駐在員なんて、まあなんて素敵な響き。
 日本の多くの男性は若い女性が好きという傾向があるので、アラフォーは射程圏外であることが多いという腹立たしい事実は抜きにして、料理学校に通う以外は自分の時間を自由に使える。こんなに毎日、デートに使える時間が人生で得られることなんてないかもしれない。
 日本人男性はともかくとして、英国の紳士との結婚なんて、未だに独身と馬鹿にされているアラフォーにとって、人生一発大逆転である。
 しかも最高の就職先だ。
 結婚したからといってそれで人生は終わりではなく、離婚だって起こりうる、という事実はこの際目をつぶり、リストラ候補のアラフォーにとって、結婚できたら御の字だ。
 それが英国の紳士となんて最高である。
 本来、結婚は愛する人とするのが幸せなんて建前はこの際どうでもいい。
 そしてヨーロッパの人間の方が、日本人より年齢に寛容そうだ。
 
 そう、この無給生活は、英国の紳士との出会いのために用意された私の人生のステージ。
 まあ、私ってなんてラッキーなのかしら。
 無職無給になったのは、結婚できる準備のためだったのよ...!

 夢は広がり、私は英国の城に住んでいる自分を想像しては、79000円のマンションに敷いた布団の中で、にんまり笑っていた。だが。

 ビザが取れないとは思わなんだ......。

この学校が学費が馬鹿高いことは知っている。だが老後の蓄えを使い果たしても、今、次の仕事を見つけなければ、老後まであと約20年、もらえる保証もない年金をあてにすれば約25年間を食べていくことができない。
 あと25年を食べていくための職業に就くための投資だ。
 私は少しでも費用を削減しようと思って、留学エージェントというものは通さず、コル○ンのHPの申込みボタンをぽちっと押した。そしてクレジットカード番号を打ち込めばこれで入学申請は終了である。
 留学エージェントを通すまでもない。
 あとは、ビザを申請し、留学する日を待つばかり。
 そう思えば人生薔薇色である。
 アラフォーにもなると、ある程度自分の会社でのポジションも見えてくる。周囲は運と言うけれど、いくら仕事を頑張っても出世もできず、いつの間にか邪魔もの扱いされる立場になる人間と、中枢に残れる人間が、ぱっくり分かれるのがアラフォーだ。
 給料は生活費のための我慢賃と思っても、後輩に敬語をつかい、後輩に邪魔もの扱いされ、何度も会社に居づらくされて、給料は毎年減っていく人生というのはなかなか精神的にきつい。
 よほど会社に命も人生もかけなければ、会社はアラフォーに会社を辞めて欲しいものなのである。
 その中、私を「料理学校の中でもブランド校である有名なコル○ン・ブルー、しかもロンドンに住んでいらしたんですってよ」「まあ素敵」と嫉妬と羨望と賛辞が取り巻く未来への勝手な想像が支えていた。
 そう思えば、たとえ無給でも、会社のパワハラやいやがらせから、一年も逃れられるという今回の機会は、いいもののような気がしてきた。
 これは会社が私にくれたご褒美だったのかもしれない。一年間の予算は約300万(学費生活費込み)。
 20年近く、結婚もせず働いて貯めた私の財産だ。
 日本にいても、そのくらいはかかるかもしれない。
 20年、海外旅行も滅多に行かなかったのだから、このくらいは贅沢してもいいだろう。
 というか、次の仕事を得るためなのだから、嫌でも自分に投資しなければならない。
 遊びのためには一切使えないお金だ。20年働いても。
 でもそれが、コル○ンブルーの技術を得られるためならば、惜しくはない。
 一旦覚悟を決めると人は現金なものだ。
 今回の無給処置は、神様が次の仕事に就きなさいと言っているのかもしれない気がしてきた。
 そう、これは運命なのよ。
 私は料理研究家として生きるよう、社会に貢献する使命があったのよ......!
 私は少し涙ぐんだ。
 よかった。
 ものにならない習い事ばかりしてきたけれど、これで私の将来は決まった。
 もう、将来食べていくことや、住む場所の心配をしなくてすむのだ。
 家賃を払えなくなる心配をしなくてすむのだ...!
 何より嬉しいのは、私にも存在している意味があったと感じられたことだ。
 学費も全額払い込み、ビザの申請も済ませた。
 資格を取るためには9か月かかる。半年以上の滞在はビザが必要だ。そうでないと不法滞在者になってしまう。
 ビザ代をエージェントに頼むと約3万円。その費用も削減したい私は、英語がちっともわからず何度もやり直したりして結局一か月も申請書類を作るのに掛かってしまったけれど。
 輝かしい私の未来。
 人生をかけた留学。
 私の一生を変えるための留学。
 帰国後はテレビの取材なんかもきちゃって、栗原は○みさんみたいに「私のおもてなし料理」なんて本まで出版しちゃったりして。
 夢見る夢子の私は、自然と顔がほころんでしまう。
 私の前には無給地獄なんてなんのその、薔薇色の未来だけが広がっていた。
 ビザさえ取れればその夢は叶う。
 しかし。大使館からの返事は。

『今年は不況で留学生の制限しちゃってるから、ビザはあげないよん。またいつか、再チャレンジしちゃってね。ちゃお♪』

 私の留学記、終了。チーン。

食べることしか楽しみがないアラフォーが、どうせやるなら好きなことを次の仕事にしようと料理留学を決めた。
 では具体的にどうしようか。
 料理の本場はフランスやらイタリアやらだ。だが私はフランス語もイタリア語も分からない。
 それに英語をブラッシュアップしたほうが、次の仕事にありつく選択の幅も広がりそうだ。そして何より、悪徳我が社は英語を勉強してこなければクビを切ると言っている。
 つまり、料理をメインにするのではなく、英語をメインに勉強してこいという足かせが、この留学にはついている。
 金も出さないんだから好きにさせろと憤っても、会社を辞める能力がないアラフォーにはそれを口にする勇気もない。
 英語が勉強できて料理も勉強できる国、となるとすぐには浮かばなかった。
 あくまでも私個人のイメージだが、アメリカに料理を習いに行っても大味というか、ハンバーガーでも習って来たの? と言われそうだし、イギリスなんて料理のまずい国に行って料理を勉強しても、日本に戻って来てから不味い料理しか作れなそうだ。
 次の仕事にありつくためには、料理の腕も磨くことも目標にしなければならない。
 そこで友人が呟いた一言。
「コル○ン・ブルーとかはどう? どうせ行くならハクがつく学校に通って帰ってきなよ。聞いたこともない学校より、料理研究家としても生徒を集めやすそうじゃない?」
「...っ!」
 お料理が好きな女性ならば、たまに聞いたことがあるこの名前。
 オードリーヘップバーンが「麗しのサブリナ」で習いに行って、磨かれた学校。
 芸能人やお金持ちが習いに行く学校。
「フランスのコル○ン・ブルー本校は日本人しかいないらしいよ。ロンドンとかはどう?」
 ロンドン。
 学生時代、少し滞在したことがあり、土地勘も多少は分かる。
 何より車を使わず、電車で通学できるというのはありがたい。 
 ロンドン、しかもコル○ン・ブルー帰りの料理研究家。
 イギリスは料理がまずいと言われていても、コル○ンならば美味しい料理が作れるかもしれない。
 何せ次の仕事にありつき、一人で自分を食べさせていかなければならないアラフォーは必死だ。
 よし。ロンドンに行こう。
 学費も為替を見れば円が高くなっている時期であり、日本の半額で資格が取れる。
 どうせなら、フランス菓子、フランス料理の両方の学位、グランディプロマとやらを取ってやろう。
 お茶にお花、さんざん習い事に金も時間もつぎ込んできたアラフォー、だがどれもものにならなかったアラフォー。かといって弁護士や税理士、司法書士等の食べていけそうな資格を勉強する根性も頭もないアラフォーにとって、人生に初めて見えた一筋の光明であった。

さて。
 急に留学しなければならない羽目になったものの、とりたててやりたいことがあるわけじゃない。
 前もって自分の人生設計を立てて、準備を重ねて、なんて用意周到な計画とも無縁だ。
 とにかくばたばたで留学を決めたものの、自分の進路と覚悟は決まった。
 どうせやらなければならないのなら、せめて少しでも「次の仕事」に結びつくような留学をしよう。
 語学留学だけなんて、この年齢、記憶力の錆びついたアラフォーが挑むには、壁が厚すぎる。
 自分で稼いだコガネを使わなければならないアラフォーは、語学だけではなく、一挙両得になりそうな何かを得られないか、ない知恵を振り絞ってさもしいことを考えた。
 何せ今回の留学の目的は「次の仕事」にありつくことなのだから。
 そこで、私はありがちだが、自分の好きなことを仕事にできないか考えた。
 好きなことが仕事にできる人は稀だ。そして、好きなことをしていれば、仕事に対する苦しみも軽減されそうだ。
 そこで今さらながらに自分探しをする羽目になり、何が好きなことかを考えてみるとそれは。
「食べること」
 だった。
 いや。
 彼氏もいないアラフォーは。
 ......食べることしか人生に楽しみがなかった.........。
 自分の人生を少しはかなんだものの、それなら、「食」をメインにした仕事に転職できないかと考えた。
 今流行りの料理研究家、自宅でお料理教室、海外帰り、本場仕込みのお料理を教えられる○先生。
 あら、これはなんて素敵な響き。
 自宅が79000円のワンルームということは置いておいて(しかも郊外)、夢は広がる。
 海外帰りの料理研究家として、帰国後に活躍の道が開けるかも...! と夢を見るだけならタダだ。
 実際、料理研究家の友人は「山ほどいるからそういう人」と冷静に憐れむように私を見つめた。
 日本では私は料理教室に通っていて、料理をする素地はある。
 なぜ料理教室に通っているかというと、料理教室と言うのは、料理を作った後、生徒同士それらを試食する時間がある。
 ......週に一回でも誰かと食卓を囲む時間が欲しかった......。
 一人で夕食を作り、自宅で壁を見ながら毎晩、一人で食事をする生活を、変えてみたかったのだ......。
 ごほん。
 それはさておき。
 料理留学というのも面白いかもしれない。
 英語が苦手でも、料理というのはできそうな気がする。
 語学学校で黒板を見ながら椅子に座って勉強するより、料理なんて、英語ができなくてもつくれりゃいい。
 それどころか、英語も料理も上達して、おまけに残った材料を持って帰らせてもらったりすれば食費も浮く。
 少しでも留学費用を抑えたいアラフォーには一石二鳥、三鳥ともいえる留学ではないか......!
 会社にされるがままに、人生を翻弄されてたまるか。
 見てろ会社め。
 海外帰りの料理研究家、○先生となって、凱旋してやる。
 解雇寸前だったあの先輩が、と会社で私を追い越していった後輩の鼻を明かしてやる。
 私は自分の思いつきに鼻息が荒かった。
 だが。
 行きあたりばったりの思い付き、そんなものがうまくいくわけあらなんだ......。

ここでもしあなたが、会社が留学費用をだしてくれるの? なんて一瞬でもちらっと思ったとしたら、とても恵まれている環境で仕事をしてきたのだと思って欲しい。

 私の場合、人件費削減が目的だから、会社はもちろん、海外留学の費用なんて一切出すわけがない。
 自腹、自保険、留学先を探すのも全部自力。
とにかく、この留学に、会社は一銭だって金を出してはいない。
 手間も暇ももちろんだ。

 なのに、自腹で勉強してきて、多少なりともスキルアップしてきたら再雇用、という、会社にはなんとも悪どい、いや、うまい方法を考え出したものだ。
 新しい人材を雇用し一から教えるよりも、その方がコストも安いのだろう。スキルアップできなければ、辞めさせればいいだけのことだし。
 
 しかも海外留学しなければならないなんて、なんとも「辞めます」という言葉を引き出したいような、高額な条件をつけたものだ。
 けれど私が極貧生活を覚悟しても海外留学を選んだのは、ひとえに、「会社を辞める勇気がなかった」それに尽きる。

よくある、二十代の、将来のキャリアに繋がるための留学は夢がある。
 三十代位までなら、ワーキングホリデーという優遇措置も受けられるだろう。
 だが、アラフォーはもう、味方になるような法律も措置も何もないのだ。世間が、アラフォーにもなって自分探しをしている人間のためにできていないのである。
 だが、したくて自分探しをしているわけじゃない。
 不況下、嫌でも新しい仕事を探さなければならなくなった人もいるし(私)、一生かけてやりたい仕事だったのになくなったりと、今の世の中、四十から新しい二度目の人生を歩む必要がある人もいる。
 これは長寿になり、そして不況がもたらした、新しい社会問題なのである。
 この年で何の目的もなく、英語を身につければ仕事にありつけるかも、なんて理由で留学しても、先例を見てそんな甘いものではないことは、十分承知している。
 私もない知恵を振り絞って、自分なりに考えた。様々な職業への転職も考えた。だが現実として転職は難しかった。
 アラフォーにもなれば、多少はいざという時に備えて、コガネを貯め込んでいるものだ。
 というわけで、私は今の自分に使ってしまうことにした。もちろん、スパやエステで癒されようとか、そういう意味ではなく、せめて資格を得たり、スキルアップしたりすれば、「次の仕事」にありつけるかもという、とても可哀想なお金の使い方である。
 20年近く働いて来て、今まで頑張って働いてきたご褒美よ、この休みは(無職ということはおいておいて)海外旅行や素敵なレストランに行って使おう、なんて言ってるような余裕はないのだ。
 働く独り者のアラフォーは、自分の寝床を確保するために、そして自分を食べさせるために、必死なのである。

<地獄への片道切符>
 現在の状況を正確に言うと、無職無給ではあるが、無職ではない。
 会社から無職無給になることを言い渡されたが、私がいる状況は完全な無職よりもっと悪い。
 会社は今、少しでも社員のクビを切りたい。
 でも、すぐに解雇するとカドが立つ。
 だから会社はどうすれば、社員に給料を払わなくていいか考えた。そこで。
 会社が考えた、悪法というのは以下のもの。
「暫く解雇じゃなくて休むっていう形にしてあげる。でもね。海外に留学してお金を使って勉強してきて、スキルアップできたら、戻ってきた時にもう一度、同じポジションと同じ給料をあげてもいいかもね♪ その時の会社の状況がよくなってたらだけど。それが嫌なら辞めれば?」
 というものなのである!
 つまり、今の私の状況は、お金をたっぷり使わされて、戻れる保証のない会社のために、海外まで来させられて勉強しなければならないというものなのだ。ああ。
 選択は二つ。
1.留学しないで会社を辞める。
2.留学して、戻れるか分からないけれど、会社員で居続けることを選ぶ。
 アラフォーになって何の資格もスキルもない人間が、明日からすぐに無職になれるだろうか。
 もちろん私は。
 辞める勇気なんてありませんでしたよ......。
 そこで、無理やり。
 老後の蓄えを使わされて、興味のなかった海外くんだりまで来なければならない羽目になったのである。
 しかも会社員であるので、海外に来てもウェイトレスのバイトをして生活費を稼ぐこともできない。
 アラフォーにもなって、苦手な英語に慣れない海外生活......。ああ。

資格なし、特にエリートというほどの学歴なし、一生続けられる仕事でもなし、会社ではリストラ対象、夫も子供もおらず、将来に不安を感じている。
・日々会社と家との往復で出会いもなく、仕事も大変で疲れるだけの毎日だ。
・夜になると鬱っぽい気持ちになり、涙が出てくることがある。
・手に職をつけておけばよかった。でも今さら何ができるのだろう。けれど、転職するには踏み切れない。
・周囲の同年代の女性は活躍しているのに、私はこのまま一人で大丈夫なのだろうか。
・多くの習い事をしてみても、どれもそれで食べていけるほどではない。いったい何をすればいいのだろう。
・雑誌を見ると、仕事も家庭も子供も手に入れている女性が、活躍する記事が目に入ることも多い。けれど、今の自分はどうなのだろう?
・お洒落な生活が羨ましいが、お金もない。


 それに全部当てはまる人はいるだろうか? 

 いる。私である。

 そこで、私が何をしでかしたかというと、海外留学だったのである!


 よくある、二十代の、将来のキャリアに繋がるための留学は夢がある。
 三十代位までなら、ワーキングホリデーという優遇措置も受けられるだろう。
 だが、アラフォーはもう、味方になるような法律も措置も何もないのだ。世間が、アラフォーにもなって自分探しをしている人間のためにできていないのである。

 だが、したくて自分探しをしているわけじゃない。
 不況下、嫌でも新しい仕事を探さなければならなくなった人もいるし(私)、一生かけてやりたい仕事だったのになくなったりと、今の世の中、四十から新しい二度目の人生を歩む必要がある人もいる。

 これは長寿になり、そして不況がもたらした、新しい社会問題なのである。
 この年で何の目的もなく、英語を身につければ仕事にありつけるかも、なんて理由で留学しても、先例を見てそんな甘いものではないことは、十分承知している。
 私もない知恵を振り絞って、自分なりに考えた。様々な職業への転職も考えた。だが現実として転職は難しかった。

 アラフォーにもなれば、多少はいざという時に備えて、コガネを貯め込んでいるものだ。
 というわけで、私は毎日、自炊して、そしてコーヒーを買うのを我慢し、弁当を作って会社に持って行き、コツコツ溜めていた「老後の蓄え」を、今の自分に使ってしまうことにした。もちろん、スパやエステで癒されようとか、そういう意味ではなく、せめて資格を得たり、スキルアップしたりすれば、「次の仕事」にありつけるかもという、とても可哀想なお金の使い方である。

 20年近く働いて来て、今まで頑張って働いてきたご褒美よ、この休みは(無職ということはおいておいて)海外旅行や素敵なレストランに行って使おう、なんて言ってるような余裕はない。

 働く独り者のアラフォーは、自分の寝床を確保するために、そして自分を食べさせるために、必死なのである。

ある日、私は自分の周囲を見渡して、愕然とした。
 6畳一間のワンルーム、ベッドも置けず夜毎布団を敷いて寝る狭さ、調理台もない小さなキッチン、洗面台もないユニットバス、払える家賃は79000円。
 紛れもない、これが現在の私が人生で得られ、私の給料で築き上げた生活である。
 若い頃なら貧乏や苦労は美談にもなるだろうが、アラフォーにもなれば、そんな生活は惨めで侘しいだけだ。これは、若い人にはまだ、理解できない感覚に違いない。
 無職無給、独身、彼なし、子なし、持ち家なし、学歴なし、資格なし、一人暮らし、ペット飼えない、とにかく、ないない尽くし、ない尽くし、が今の私を取り巻く状況である。
 平凡な平均的な、普通の人生を歩んできたつもりなのに、年齢がアラフォーになった途端、自分がとても不幸に感じるのはなぜだろう。
 幸せを掴むために努力しても、人生においてうまくいかない時は、うまくいかないものである。
 決して努力していないわけじゃない。人生は行動よ、とばかりに動くほど、これでもかとばかりに挫折が訪れる。
 既に数多くの挫折が訪れ、努力するほどに裏目に出てばかり。
 せっかくだから、こんなに不幸な人もいるんだと、明るく笑ってもらえれば、私の不幸も少しは役に立つ。そうでも思わなければやっていられない。
 なんて、もがく日々を綴っていきたいと思うので、ぜひ明るく笑って「私のほうがましだわ。ああよかった」と思ってもらえれば幸いである。


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