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TITLE : ああ、無情 アラフォー8

この学校が学費が馬鹿高いことは知っている。だが老後の蓄えを使い果たしても、今、次の仕事を見つけなければ、老後まであと約20年、もらえる保証もない年金をあてにすれば約25年間を食べていくことができない。
 あと25年を食べていくための職業に就くための投資だ。
 私は少しでも費用を削減しようと思って、留学エージェントというものは通さず、コル○ンのHPの申込みボタンをぽちっと押した。そしてクレジットカード番号を打ち込めばこれで入学申請は終了である。
 留学エージェントを通すまでもない。
 あとは、ビザを申請し、留学する日を待つばかり。
 そう思えば人生薔薇色である。
 アラフォーにもなると、ある程度自分の会社でのポジションも見えてくる。周囲は運と言うけれど、いくら仕事を頑張っても出世もできず、いつの間にか邪魔もの扱いされる立場になる人間と、中枢に残れる人間が、ぱっくり分かれるのがアラフォーだ。
 給料は生活費のための我慢賃と思っても、後輩に敬語をつかい、後輩に邪魔もの扱いされ、何度も会社に居づらくされて、給料は毎年減っていく人生というのはなかなか精神的にきつい。
 よほど会社に命も人生もかけなければ、会社はアラフォーに会社を辞めて欲しいものなのである。
 その中、私を「料理学校の中でもブランド校である有名なコル○ン・ブルー、しかもロンドンに住んでいらしたんですってよ」「まあ素敵」と嫉妬と羨望と賛辞が取り巻く未来への勝手な想像が支えていた。
 そう思えば、たとえ無給でも、会社のパワハラやいやがらせから、一年も逃れられるという今回の機会は、いいもののような気がしてきた。
 これは会社が私にくれたご褒美だったのかもしれない。一年間の予算は約300万(学費生活費込み)。
 20年近く、結婚もせず働いて貯めた私の財産だ。
 日本にいても、そのくらいはかかるかもしれない。
 20年、海外旅行も滅多に行かなかったのだから、このくらいは贅沢してもいいだろう。
 というか、次の仕事を得るためなのだから、嫌でも自分に投資しなければならない。
 遊びのためには一切使えないお金だ。20年働いても。
 でもそれが、コル○ンブルーの技術を得られるためならば、惜しくはない。
 一旦覚悟を決めると人は現金なものだ。
 今回の無給処置は、神様が次の仕事に就きなさいと言っているのかもしれない気がしてきた。
 そう、これは運命なのよ。
 私は料理研究家として生きるよう、社会に貢献する使命があったのよ......!
 私は少し涙ぐんだ。
 よかった。
 ものにならない習い事ばかりしてきたけれど、これで私の将来は決まった。
 もう、将来食べていくことや、住む場所の心配をしなくてすむのだ。
 家賃を払えなくなる心配をしなくてすむのだ...!
 何より嬉しいのは、私にも存在している意味があったと感じられたことだ。
 学費も全額払い込み、ビザの申請も済ませた。
 資格を取るためには9か月かかる。半年以上の滞在はビザが必要だ。そうでないと不法滞在者になってしまう。
 ビザ代をエージェントに頼むと約3万円。その費用も削減したい私は、英語がちっともわからず何度もやり直したりして結局一か月も申請書類を作るのに掛かってしまったけれど。
 輝かしい私の未来。
 人生をかけた留学。
 私の一生を変えるための留学。
 帰国後はテレビの取材なんかもきちゃって、栗原は○みさんみたいに「私のおもてなし料理」なんて本まで出版しちゃったりして。
 夢見る夢子の私は、自然と顔がほころんでしまう。
 私の前には無給地獄なんてなんのその、薔薇色の未来だけが広がっていた。
 ビザさえ取れればその夢は叶う。
 しかし。大使館からの返事は。

『今年は不況で留学生の制限しちゃってるから、ビザはあげないよん。またいつか、再チャレンジしちゃってね。ちゃお♪』

 私の留学記、終了。チーン。

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