七転八倒の苦しみの中、そのワカモノは言った。
「由里さん、お料理留学ならニュージーランドはどうですか? いい学校があるんですよ~」
ニュージーランド?
考えてもいなかった選択肢だ。
行ったこともなかった国だ。どんな学校かも分からない。
私は拒絶した。
だが彼は何度もしつこいくらいそこを勧めた。
ビザを拒否され、犯罪者扱いされ、留学もできず、再起をかけた人生計画がまるきり狂ってしまい、私はどうやらパニックを起こしていたらしい。
その状況にいる間は、人は気づいていないものだ。
何とか人生を変えたかった。そして、決断まで時間がなかった。会社はさっさとアラフォー社員を無職休業に入らせたかったから、もう一度学校選択から一からやり直し、なんて時間がないという制限があった。
そういう時に、セールスマンの勧誘は、甘美な囁きになるものだ。
人は弱っている時に付け込まれるもの。
私は彼の提示するまま、その学校がいいもののような錯覚を起こし、ついうっかり頷いていた。
英国の紳士との出会いが、→ニュージーランドで羊飼いと出会う旅(すみません、勝手なイメージです)になってしまった瞬間であった。




