パニックを起こしている時というものは、判断能力が鈍っているものだ。
もしかしたらプチ鬱だったのかもしれない。
そういう時に、再三、本は「重大な決断をしてはいけませんよ♪」と書いてある。
だが、実際そういう立場になってみると、本人は。
結構気づいてないんですよこれが...。
で。ロンドンからニュージーランドに変更したことに、周囲の皆はびっくりしていたものの、とりあえず、ここ数週間の私の激動ぶり、寝不足ぶりを不憫に思っていた友人たちは一様に落ち着き先が決まったことに安堵してくれた。
だが日に日に、留学が近づくほどに、私はブルーになっていった。
ガイドブックを買ったものの。
「トレッキングをしよう!」「大自然と遊ぼう!」「老後に最適!」「環境最高!」「シルバー人生を優雅に送りたいあなたへ」
人生再起をかけての留学。
料理研究家としての勉強、やる気満々の留学を野心すら抱いていた人間とは対照的に、「余生を送りたいならニュージーランド」という記事ばかり目につく。
しかも「特筆すべき料理はない」なんてことも書いてある。(私が見たガイドブックは)
ブルーになっている私に、友人は一言。
「あんたの目的の一つに、料理だけじゃなくて婚活も含まれてるんじゃなかったっけ? ニュージーランドだったら羊と出会う方が多いかもよ~」(すみません、勝手なイメージです)
既に会社に学校が決まった旨も報告した。だが、どことなく、そのセールスマン、もとい留学エージェントがあやしい気はしていて、なんとなく、本当にこれは私にとっていい留学だったのかと警鐘が鳴っていた。
なんせ、料理学校自体の学費もだが、それに付随する姉妹校も紹介されてそこも行くことになっていたのだが、その学校の学費は一日3万円。
一週間で21万円。
一か月で84万円である。
どう考えてもおかしい。高過ぎる。
着物や消火器や、ハンコやらの訪問販売に、うっかり引っかかってしまう人の気持ちが、馬鹿にしていたが今ならばよーく分かる。
私は勇気を振り絞って、エージェントにお断りの電話を入れた。
彼はちょっと立腹していた。いいカモからたっぷりマージンを引き出せると思っていたに違いな...あわわ。
だが会社に報告した手前、留学するのをやめたとは言えない。
急いで他の学校を探した。無給になる日はもう刻々と近づいている。
期間が折り合わず、見つかったのは「コーヒーの淹れ方」という学校であった。
料理研究家がなぜか、コーヒーの淹れ方という包丁一本持たない学校のために、興味もまったくない勉強のために、大枚はたいて出かけることになったのである。
しかも、コーヒーでは余った材料を持ち帰れず、腹の足しにもならない。
留学費用も節約できない。
コーヒーは好きですが。




